舞台は激しい内戦を終えた1940年代のスペイン・カタルーニャ。勝ち組と負け組が共存して暮らし、戦いの傷跡が生々しく残るこのカタルーニャの森で、11歳の少年アンドレウは血まみれになった親子の遺体を発見する。彼らが最期の瞬間に遺したのは「ピトルリウア」という謎の言葉。それは子どもたちの間で語り継がれる、洞穴に潜んだ翼を持つ怪物の名前だった。だが、最愛の父に殺人の容疑がかけられた時から、アンドレウの世界は音を立てて崩れはじめる。警察の追及を逃れるため、姿を消した父。安全のために祖母の家へ引き取られたアンドレウは、そこで大人たちがひた隠しにする惨たらしい現実を目の当たりにする。小学校の教師と関係を持つ指先を失った従姉。裸で森をさまよう美しい青年。そして激しい戦いを生き延びるため、嘘を積み重ねて暮らしてきた村の人々。理想を失わない父の姿に誇りを抱いてきたアンドレウは、やがてさまざまな謎が明らかになるにつれて、おそろしい事実を知ることになる。

人間の欲望を暴き出し、真実と嘘が交錯する緊張感に満ちた世界を創り上げたのは、”スペインのデヴィッド・リンチ”と称される鬼才アグスティー・ビジャロンガ。ゴヤ賞のみならず、ガウディ賞でも最多13部門を受賞し、サン・セバスチャン国際映画祭主演女優賞ほか数々の映画賞を独占した、そのマジック・リアリズム的な演出と映像美は批評家たちの高い評価を集めた。主人公のアンドレウを演じたのは、本作の製作チームに見出され、衝撃的な主演デビューを果たした当時弱冠12歳のフランセスク・クルメ。そしてスペインを代表する名優セルジ・ロペスが、アンドレウの一家を追い詰める欲にまみれた町長を演じている。

どこまでも続く、あの黒く深い森の奥でいったい何があったのか?次々と絡み合う謎を解きほぐすうち、アンドレウは人間の心に潜む大きな闇をのぞくことになる。同じく内戦後のスペインを舞台にした『パンズ・ラビリンス』(2007)同様、その濃密な物語は人々から人間性を奪った社会を告発する視点も欠かさない。神話的な世界が現実と溶け合うカタルーニャの風景の中、残酷な真実を前にして、少年が最後に下す決断とは?

富める者は白く柔らかいパンを食べ、貧しき者は硬く味のない黒パン—。それでも少年は幸せだった。あの日が来るまでは・・・。

1940年代、スペイン・カタルーニャ。鬱蒼と茂った森の奥で、ディオニスとその息子クレットが息絶えるのを目撃したアンドレウ(フランセスク・クルメ)は、幼馴染であるクレットが最期に「ピトルリウア……」とうめくのを耳にする。”ピトルリウア”とは、森の洞穴に潜むと言われる羽根を持った怪物の名前だった。当初は事故と見ていた警察だが、崖下に横たわった遺体を調査した結果、殺人事件と断定。左翼の運動に関わってきたアンドレウの父ファリオルが、第一容疑者として目をつけられる。以前から、父が政治的な活動を続けてきたため、アンドレウの一家は周囲の冷ややかな目にさらされ、村八分にされた父は、同志だったディオニスと組んで鳥の鳴き声大会を始めたのだという。このような背景もあってか、追及を避けるため姿を隠した父。だが、母(ノラ・ナバス)は生活のため工場で働き続けるしかなく、アンドレウは祖母の家へ引き取られることになった。祖母の家には、事故で左手首から先を失った従妹のヌリア(マリナ・コマス)がいた。彼女ら親戚の子どもたちと新しい小学校へ通うアンドレウは、ヌリアが教師と関係を持ち、娼婦の家系と陰口を叩かれていることを知る。裸でベランダに立つヌリアを見かけたアンドレウは、口をすべらせたらタマを切ると脅される一方、「あんたは特別」と言ってヌリアから頬に口づけを受ける。

ある日、アンドレウはピトルリウアのように

ある日、アンドレウはピトルリウアのように裸で森を駆ける美しい青年の姿を目にした。修道院で療養生活を送る彼は、アンドレウにこんな話をする。「退屈な時、背中から翼がはえて、僕は舞い上がる。自分が望めば、別世界へ飛んでいけるんだ。」そんな青年に強く惹かれるアンドレウは、彼へ渡す食べものを牧草地の木陰に隠すようになる。 夜、なにかが動く気配を感じてなかなか寝付けないアンドレウ。ヌリアに手渡された鍵で屋根裏部屋に忍び込んだ彼は、そこで姿を隠したはずの父を発見する。父は同じ屋根の下に隠れて暮らしていたのだった。将来は医者になる夢を持つアンドレウに、父は言った。「鳥は自由に空を飛ぶために生まれた。人間も何を理想とするかは個人の自由だ。理想のために闘おう。」しかし、警備隊による突然の家宅捜索で身柄を拘束された父は、アンドレウだけに「農場主のマヌベンスさんに話せ」と言い残し警察へ連行されていく。母とアンドレウは無実の父を救うために、町の資産家であるマヌベンス夫人を訪ねる。裕福なマヌベンス夫人は、父のために町長(セルジ・ロペス)宛ての手紙をしたためた。だが、町長のもとを訪ねた母は、かつて彼女への恋心を抱いていた彼に弄ばれてしまう。大人たちの汚い現実を次々と目の当たりにするアンドレウ。そんな彼に、浮浪者同然になって村をさまようディオニスの妻は、父の過去にまつわる新事実を告げるのだった。以前、村に住んでいたマルセルという名の青年は、マヌベンス夫人の弟と肉体関係を持ったため、村人たちの制裁を受け、彼に去勢という惨たらしい罰を加えたのは、父とディオニスのふたりだった、と。

母の必死の嘆願も叶わず、自らの死を覚悟した父は、マヌベンス夫人への手紙をひそかにアンドレウに託す。数日後、アンドレウはマヌベンス夫人から学費援助の申し出があったことを知る。裕福な夫人の養子になって勉強を続けるか、それとも貧しい母とともに暮らし工場へ働きに出るか。人生における大きな選択を迫られた彼だったが、遂に父の悲しい最期に直面してしまう。しかし、父の死後、アンドレウは想像もしなかった真実の数々を知ることになる。明らかになるピトルリウアの正体とは? そして、無惨な殺人事件の犯人とは?

フランセスク・クルメ Francesc Colomer/アンドレウ

1997年カタルーニャ州マンジェウ生まれ。
キャスティングにあたり、カタルーニャ語を話す子役のオーディションが彼の通う小学校で行われ、本作品の主役に大抜擢された。本人曰く「合格のポイントは、痩せていたことと、小さかったことなんじゃないかな。」彼の演技はスペイン本国で大絶賛され、2011年ゴヤ賞で見事新人男優賞を受賞。将来は、本作品で共演をしたセルジ・ロペスのような国際的な俳優を目指している。

ノラ・ナバス Nora Navas/フロレンシア

1975年カタルーニャ州バルセロナ生まれ。
数々のTVドラマ、映画、舞台に出演。本作品にて2010年サン・セバスチャン国際映画祭、そして2011年ガウディ賞およびゴヤ賞にて主演女優賞を受賞。この受賞によって一気に知名度を上げ、女優生活の大きなターニングポイントとなり、その地位を確立した。待機作はイマノル・ウリベ監督(『キャロルの初恋』)の最新作は「Miel de naranjas」(2012公開予定)である。

ルジェ・カザマジョ Roger Casamajor/ファリオル

1976年ピレネー生まれ。
アンドラ公国で演技の勉強をはじめ、舞台で演技デビューを果たす。ベントゥーラ・ポンス監督の「女が男に落ちるとき」(2004/未)、ギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2007)等に出演。アウグスティ・ビジャロンガ監督作への出演は、映画デビュー作のの「El mar」(原題/2000/未)に続き2作目。本作の出演により、2011年にガウディ賞助演男優賞を受賞。